Research

Japanese          English

オルガネラ物理学

私たち人間を含め動物、植物、カビ、原生生物など目に見えるほとんどの生きものは真核生物に分類されます。真核生物は細胞の中に核を持つ生きものという意味ですが、この細胞(真核細胞)には核以外にもゴルジ体やミトコンドリア、小胞体、オートファゴソームなど、さまざまな形と機能を持った構造物があり、それらは総称して “オルガネラ(細胞小器官)”と呼ばれています。

このオルガネラたちはそれぞれ異なった機能を担うことで細胞内で分業を行い、結果、全体として複雑で多様な細胞の振舞を実現しています。ミトコンドリアはエネルギー工場、オートファゴソームはごみ処理-リサイクル工場、小胞体は細胞各所や細胞の外で働くタンパク質(分子機械)の工場、ゴルジ体は小胞体で作られたタンパク質の配送センターとして働いています。これらオルガネラは脂質膜(油の膜)で形作られていて、膜で囲まれた内側や膜の表面にそれぞれ違ったタンパク質と化学環境を用意することで、それぞれの機能を実現しています。このようなオルガネラ各々の機能とそれを支える分子の種類や働きは、これまで生化学・細胞生物学・分子生物学の発展により多くのことがわかってきました。

では、オルガネラの形はどうでしょうか? オルガネラは物理空間に“脂質膜で形作られて”存在しているので、形を持ちます(当たり前ですが)。しかも、それぞれがユニークな形を持つため、古くから電子顕微鏡画像などで形に基づいて分類されてきました。また、多くの生きものがよく似た形のオルガネラを(長い進化を経てなお)保っているため、その形は生きものの生存に重要で、オルガネラの持つ機能と深く結びついていると考えられています。しかし、オルガネラがどのような仕組みで形作られているかは、あまり解明されてきていません。

その理由のひとつは、オルガネラがとても小さいからです。オルガネラは小さいため、その形を見るためには電子顕微鏡を用いなくてはいけません。電子顕微鏡で観察するためには、化学固定や急速凍結などで試料を固める必要があり、細胞を生きたまま観察することができません。つまり動いているオルガネラを観察することができないのです。このことは生きものの体の形作り:発生生物学が、ライブ観察技術の進歩によって大きく発展していることと対照的です。

では、オルガネラの動きを理解する方法はないのでしょうか? 上で述べたように、オルガネラはその部分々々を取り出してみると、分子の膜(脂質膜)とタンパク質分子でできています。これら分子の動きは物理学で記述できるはずです。では、この部分々々(ミクロ)の物理法則を積み上げ、電子顕微鏡画像などの断片的な情報と合わせて、オルガネラ全体の動き(マクロ)を理解することはできないでしょうか? 私は数理モデル・コンピューターシミュレーションの手法を使い、このミクロからマクロを再現することでオルガネラの形と動きを理解する研究を行っています。

 

 

Physics of Organelle